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徳島地方裁判所 平成6年(行ウ)15号 判決

徳島市津田海岸町三番五〇号

原告

横井製材株式会社

右代表者代表取締役

横井昭

右訴訟代理人弁護士

松田隆次

徳島市幸町三丁目五四番地

被告

徳島税務署長 白川清之

右指定代理人

前田幸子

平賀孝男

宗石長男

中村司

播磨憲

近藤康文

改田典裕

川村勲

和泉康夫

大喜多山治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成五年二月二三日付けでした次の各処分を取り消す。

一  原告の昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度の法人税に対する更正のうち、法人税額四八六五万三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも被告が平成七年五月二五日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定処分により一部取り消された後のもの)

二  原告の平成二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税に対する更正及び過少申告加算税賦課決定処分

三  原告の平成三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税に対する更正のうち、法人税額一九四五万二三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分

第二事案の概要

(争いのない事実)

一  原告は、製材・製材製品の売買・山林の経営等を業とする法人であり、法人税の申告について所轄税務署長から青色申告の承認を受けている同族会社である。

二  原告は、昭和六二年四月三〇日、井筒木材株式会社(本店所在地・大阪市西区北堀江一丁目二一番二五号、代表取締役・横井昭、以下、「旧井筒木材」という)との間で、〈1〉原告と旧井筒木材は合併し、原告は存続し、旧井筒木材は解散する、〈2〉合併期日は同年七月一日とする。〈2〉旧井筒木材は、同年六月三〇日現在における貸借対照表、財産目録その他同日における計算を基礎とし、その資産、負債及び権利義務の一切を合併期日に原告に引き継ぎ、原告は、これを承継することなどを内容とする合併契約を締結し、所要の手続を経たうえ、同年七月一日、旧井筒木材を吸収合併した(以下、「本件合併」という)。

三  本件合併時に旧井筒木材が有していた資産のうち争いのない部分の価額(総額一一億五一三一万五二九一円)

1 現金・預金 二七四万八九七四円

2 未収入金 六五七六万九四六二円

3 建物 一四〇万六三〇四円

4 車両運搬具 四二万円

5 什器備品 一〇万二一九五円

6 電話加入権 七万五二七円

7 積立保険料 三一三〇万二四〇〇円

8 前払保険料 一三一万九六八〇円

9 長期貸付金 三億五七八四万三三三七円

10 有価証券 五億一一六四万七六四六円

11 土地

a 大阪府泉北郡忠岡町新浜一丁目三番七宅地(五一三六・六六平方メートルのうち一二九九・一二平方メートル)

一億五一九九万九七六六円

b 高知県土佐山田町樫の谷所在の山林一一筆

二六六八万五〇〇〇円

(なお、旧井筒木材は、その他に別紙物件目録記載一ないし六の各土地及び立木を所有していたが、その価額について当事者間に争いがある。)

四  本件合併により原告が取得した土地の譲渡

別紙物件目録記載の土地は、本件合併により原告が取得したものであるが、原告は、右土地を、以下のとおり譲渡した。

1 別紙物件目録記載七の土地(以下、「本件土地売買A」という)

譲渡年月日 平成元年一〇月三〇日(引渡日は同年一二月二〇日)

譲渡の相手方 井筒木材株式会社(本店所在地・大阪府泉北郡忠岡町新浜一丁目五番一二号)

譲渡価額 二四三三万五〇八円

譲渡原価 一一一万六一〇三円

2 別紙物件目録記載四の土地(以下、「本件土地売買B」という)

譲渡年月日 平成元年一一月二〇日

譲渡の相手方 株式会社グローリービル

譲渡価額 一〇億九五八三万六五〇〇円

譲渡原価 一六四万六〇四三円

3 別紙物件目録記載六の土地(以下、「本件土地売買C」という)

譲渡年月日 平成二年一月三一日

譲渡の相手方 明清エンジニアリング株式会社

譲渡価額 一八億二七四九万二二五円

譲渡原価 一三一万四五七八円

五  課税等の経過

1 原告は、昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度(以下、「平成元年一二月期」という)、同二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下、「平成二年一二月期」という)及び同三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下、「平成三年一二月期」といい、また、各事業年度を総称して「本件各事業年度」という)の法人税につき、本件土地売買AないしCが租税特別措置法六三条及び六三条の二が定める土地譲渡益重課の対象となる土地の譲渡等には当たらないとして、別紙課税等経過表の「確定申告」欄記載のとおり、青色申告書による確定申告を行った。

2 原告は、本件各事業年度の法人税について、別紙課税等経過表の「修正申告」欄記載のとおり、青色申告書による修正申告を行い、これに対し、被告は、平成元年一二月期についてのみ、同表の「賦課決定」欄記載のとおり、過少申告加算税の賦課決定を行った。

3 被告は、本件各事業年度の法人税について、本件土地売買A及びBが租税特別措置法六三条の二が定める超短期所有土地として、本件土地売買Cが同法六三条が定める短期所有土地としていずれも土地譲渡益重課の対象となる土地の譲渡等に当たるとして、別紙課税等経過表の「更正及び賦課決定」欄記載のとおり、更正及び過少申告加算税の賦課決定を行った。

4 原告は、右更正及び過少申告加算税の賦課決定に対し、別紙課税等経過表の「審査請求」欄記載のとおり、直ちに国税不服審判所長に対して審査請求を行ったが、国税不服審判所長は、同表の「裁決」欄記載のとおり、原告の審査請求をいずれも棄却した。

5 被告は、平成七年五月二五日、本件土地売買A及びBが租税特別措置法六三条が定める土地譲渡益重課の対象となる短期所有土地の譲渡等に当たるとして、原告の平成元年一二月期の法人税につき、

〈1〉 所得金額(欠損金額) 〇円

〈2〉 通常の法人税額 〇円

〈3〉 課税留保金額 五二〇九万円

〈4〉 留保金額に係る税額 六三一万三五〇〇円

〈5〉 土地譲渡利益金額 一一億一六七二万八〇〇〇円

〈6〉 土地重課にかかる税額 二億二三三四万五六〇〇円

〈7〉 法人税額(〈2〉+〈4〉+〈6〉) 二億二九六五万九一〇〇円

〈8〉 税額控除額 八〇三万六五一円

〈9〉 納付すべき税額(〈7〉-〈8〉) 二億二一六二万八四〇〇円

〈10〉 過少申告加算税額 二三一二万六五〇〇円

とする再更正及び過少申告加算税の賦課決定処分を行い、前記3の更正及び過少申告加算税の賦課決定処分の一部取消を行った(以下、一部取消後のものを「本件更正」及び「本件過少申告加算税の賦課決定」という)。

六  被告が本件更正及び過少申告加算税の賦課決定を行う前提として認定した本件各事業年度の法人税の課税標準等及び税額等

1 通常の法人税額(争いなし)

原告の本件各事業年度のいずれにおいても所得は生じておらず(なお、平成元年一二月期及び同三年一二月期については、法人税法五七条所定の繰越欠損金が損金として算入されている。)、通常の法人税額は、いずれも零円である。

2 留保金課税に係る税額(原告は本件土地売買が土地譲渡益重課の対象にならないことを前提として争う)

(一) 課税留保金額

平成元年一二月期 五二〇九万円

平成二年一二月期 〇円

平成三年一二月期 〇円

右課税留保金額は、法人税法六七条二項及び平成元年一二月期については同二年法律第一三号による改正前の租税特別措置法六三条六項一号、同年一二月期及び同三年一二月期については同年法律第一六号による改正前の租税特別措置法六三条六項一号各所定の留保金額のうち、法人税法六七条三項所定の留保控除額を超える部分として計算した金額である。

(二) 留保金課税に係る税額

平成元年一二月期 六三一万三五〇〇円

平成二年一二月期 〇円

平成三年一二月期 〇円

前記のとおり、平成元年一二月期については、法人税法六七条二項所定の留保所得金額四億二八三六万六六七四円から同条三項所定の留保控除額三億七六二七万五六七五円を差し引いた五二〇九万円(国税通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数は切捨て)に同条一項所定の割合を乗じた六三一万三五〇〇円(国税通則法一一九条一項の規定により百円未満の端数は切捨て)が留保金課税に係る税額となる。

3 土地重課に係る税額(原告は争う)

(一) 土地譲渡利益金額

(1) 平成元年一二月期 一一億一六七二万八〇〇〇円

右金額は、短期所有土地の譲渡に該当する本件土地売買A及びBにつき、平成三年法律第一六号による改正前の租税特別措置法六三条二項の規定に基づいて計算した各土地譲渡利益金額を合計し、国税通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数を切り捨てた金額である。

(2) 平成二年一二月期 四億四〇八万一〇〇〇円

右金額は、短期所有土地の譲渡に該当する本件土地売買Cにつき、平成三年法律第一六号による改正前の租税特別措置法六三条二項の規定に基づいて計算した土地譲渡利益金額一八億二五八三万六〇四九円から、同二年法律第一三号による改正前の租税特別措置法六三条四項の規定に基づき土地譲渡利益金額から控除すべきものとされる八億三九四五万五八九四円(特定の資産の買換えの場合の課税の特例により平成二年一二月期の損金に算入した金額)及び五億八二二九万九〇二五円(特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例により同期の損金に算入した金額)をそれぞれ控除し、国税通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数を切り捨てた金額である。

(3) 平成三年一二月期 六億三〇六三万三〇〇〇円

右金額は、平成二年法律第一三号による改正前の租税特別措置法六三条四項の規定に基づき土地譲渡利益金額に加算すべきものとされる四八三三万四八七八円(特定の資産の買換えの場合の課税の特例により平成二年一二月期の損金に算入した金額の一部)及び五億八二二九万九〇二五円(特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例により平成二年一二月期の損金に算入した金額)を合計し、国税通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数を切り捨てた金額である。

(二) 土地重課に係る税額

(1) 平成元年一二月期 二億二三三四万五六〇〇円

(2) 平成二年一二月期 八〇八一万六二〇〇円

(3) 平成三年一二月期 一億二六一二万六六〇〇円

右各税額は、各事業年度の土地譲渡利益金額に、平成三年法律第一六号による改正前の租税特別措置法六三条一項所定の短期所有土地の譲渡等に係る特別税率二〇パーセントを乗じた金額である。

4 法人税額(原告は争う)

平成元年一二月期 二億二九六五万九一〇〇円

平成二年一二月期 八〇八一万六二〇〇円

平成三年一二月期 一億二六一二万六六〇〇円

右法人税額は、1ないし3の合計額である。

5 税額控除額(争いなし)

平成元年一二月期 八〇三万六五一円

平成二年一二月期 三〇三万一四〇円

平成三年一二月期 四三七万七二一七円

6 納付すべき税額(原告は争う)

平成元年一二月期 二億二一六二万八四〇〇円

平成二年一二月期 七七七八万六〇〇〇円

平成三年一二月期 一億二一七四万九三〇〇円

右納付すべき税額は、法人税法六八条の規定に基づき、4の本件各事業年度の法人税額から5の本件各事業年度の税額控除額を控除し、国税通則法一一九条一項の規定により百円未満の端数を切り捨てた金額である。

7 過少申告加算税額(原告は争う)

平成元年一二月期 二三一二万六五〇〇円

平成二年一二月期 一二〇九万六五〇〇円

平成三年一二月期 一四一五万三〇〇〇円

右過少申告加算税額は、本件において、過少申告加算税の計算の基礎となった事実が本件各更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことにつき、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条一項及び二項の規定に基づき計算した金額である。

(争点)

一  租税法律主義違反

1 原告の主張

(一) 平成三年法律第一六号による改正前の租税特別措置法(以下、「措置法」という。)六三条五項及び同年政令第八八号による改正前の同法施行令三八条の四第二五項一号イによれば、合併法人が合併により受け入れた土地等については、原則として被合併法人がその土地等を取得した日において取得したものとみなされるが、例外的に昭和四八年四月二一日以後の合併により受け入れた土地等で、資産の価額の総額のうちに占める土地等の価額の合計額の割合が七〇パーセント以上である被合併法人との合併により受け入れた土地等については、合併の日に取得したものとみなされる。

(二) ところで、法人税法には、合併法人が合併により被合併法人から受け入れた土地等の取得価額について定めがないところ、原告は、旧井筒木材が有する全ての資産について、その帳簿価額で受け入れる経理処理を行った。かかる場合に、被合併法人の有する資産の価額の総額に占める土地等の価額の合計額の割合が七〇パーセント以上であることを理由に、合併による土地等の受入の日が土地等の取得日になるとして被合併法人の取得日を引き継がず、他方、原告のように被合併法人の帳簿価額を引き継いだ場合には、実際には短期所有土地の譲渡益とはいえない合併以前に生じたキャピタル・ゲインであって、かつ、被合併法人の取得日からの所有期間に照らして、本来その対象とならないはずのキャピタル・ゲインについてまで短期所有土地譲渡益重課の対象となる。これは、投機的な土地取引を抑制しようとする短期所有土地譲渡益重課の趣旨を逸脱するものであり、重課のために新たな課税要件を追加したものにほかならないから、そのような取扱いをしようとするならば、法律によってするか、政令による場合はこれに対する法律の個別的・具体的な委任の存在が必要である。しかるに、前記のとおり、合併における取得日の特例は、措置法ではなく、同法施行令三八条の四第二五項一号に具体的な定めを有するところ、その法律上の根拠となるものは、「前各項に規定するもののほか、第三項第四号ハの公募の方法に関する事項その他前各項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。」とする平成三年法律第一六号による改正前の措置法六三条五項にすぎない。右は、概括的・白地的に政令に委任したものであって、憲法三〇条及び八四条が定める租税法律主義に違反する。

2 被告の主張

(一) 措置法が定める法人に対する土地重課制度は、法人の土地投機による地価の値上がりの防止等を目的として設けられたものであり、法人が土地の譲渡等をした場合に、その所有期間に応じて、特別の税率を適用して計算した税額を通常の法人税額に加算することを内容としている。本件各事業年度当時の土地重課制度では、他の者から取得した土地の譲渡等で、その土地等(土地または土地の上に存する権利)の所有期間(土地等を引き続き所有していた期間)が二年を超え五年以下(短期所有)または二年以下(超短期所有)の場合について、土地重課の対象とされていた(平成三年法律第一六号による改正前の措置法六三条一項、二項及び七項並びに六三条の二第一項及び第二項)。そして、土地の譲渡等に係る土地等が短期所有の土地等に該当するか否かは、法人がその土地等を他の者から取得した日の翌日から譲渡した日の属する年の一月一日までの所有期間によって判断するものとされ(平成三年法律第一六号による改正前の措置法六三条二項)、法人が吸収合併によって被合併法人が有していた土地等を受け入れた場合は、その受入の日が土地等の取得日となるのが原則であるが、被合併法人の有する資産の価額の総額に占める土地等の価額の合計額の割合が七〇パーセント未満の場合には、右受入の日ではなく、被合併法人がその土地等を取得した日を土地等の取得日とみなす旨の特例が設けられている(平成三年法律第一六号による改正前の措置法六三条五項、同年政令第八八号による改正前の同法施行令三八条の四第二五項一号イ)。

(二) ところで、措置法六三条二項にいう「(土地等の)取得」は、私法上、土地等の所有権の取得とみられるあらゆる場合が含まれるから、購入という典型的な場合のみならず、合併または現物出資による土地等の受入れによる土地等の取得の場合も含まれ、したがって、本件のように、法人が吸収合併により土地等を受け入れた場合にも「(土地等の)取得」があったことになり、合併による受入日から引き続き所有していた土地等で所有期間が一〇年以下であるものについては法六三条二項が適用される。以上を踏まえたうえで、措置法施行令三八条の四第二五項は、一定の態様の土地取得につき、取得日の判定に関して特別の扱いをすることとして具体的に規定し、それぞれに掲げる日を取得日とみなしたにすぎない。

(三) 以上によれば、措置法施行令三八条の四第二五項は、新たに課税対象物を規定したり、課税要件を追加するものではないから、租税法律主義に反しない。

二  旧井筒木材の有する資産の価額の総額に占める土地等の価額の合計額の割合が七〇パーセント以上であるか

1 被告の主張

争いのない事実二記載のとおり、原告は、昭和六二年七月一日、旧井筒木材を吸収合併したが、同社が合併時に有していた資産の価額のうち、争いのない事実三記載の価額(一一億五一三一万五二九一円)は当事者間に争いがなく、かつ、本件合併時点において、同社が所有する別紙物件目録記載一及び二土地の合計価額は五億四三〇〇万円、同目録記載三ないし五土地の合計価額は二二億九七九〇万円、同目録記載六土地の価額は八億六六〇万円であり、また、同社が所有する立木(以下、「本件立木」という)の価額は九五四五万円であるから、同社の資産総額(四八億九四二六万五二九一円)に占める土地の価額の合計額(三八億二六一八万四七六六円)の割合は約七八・一八パーセントとなる。

したがって、原告が旧井筒木材の吸収合併によって同社から受け入れた土地等の取得日は、その受入の日である昭和六二年七月一日であるから、本件土地売買AないしCは、いずれも短期所有土地の譲渡に該当する。

2 原告の主張

前記一2(一)記載の主張のとおり、その有する資産の総価額のうちに占める土地等の価額の合計額の割合が七〇パーセント以上である被合併法人との合併により当該土地等受け入れた場合、一律に当該土地等の取得を目的とする合併とみて、被合併法人の当該土地等の取得日の引継を否定するのであるから、法的安定性のため、控えめあるいは堅めの地価の評価とされる公示価格をもってしても七〇パーセント以上となる場合でなければならないと解すべきである。そして、公示価格比準倍率方式によれば、本件合併時点において、別紙物件目録記載一及び二土地の合計価額は三億八九四万九四五九円、同目録記載三ないし五土地の合計価額は一〇億五八六九万四四三六円、同目録記載六土地の価額は四億五四七八万二六二五円で、合計一八億二二四二万六五二〇円となる。また、本件立木の樹種・樹齢及び樹種・樹齢ごとの面積に基づいて算出した本件合併時点の本件立木の価額は四億六一八四万七〇〇〇円である。以上によれば、旧井筒木材が合併時に有していた資産の価額の総額に占める土地等の価額の合計額の割合は、約五五・九五パーセントであるから、原告が合併によって同社から受け入れた別紙物件目録記載の各土地の取得日は、旧井筒木材の取得日(同目録記載七土地・昭和三九年三月一八日、同目録記載四土地・同三一年四月二一日、同目録記載六土地・同二七年二月二九日)を引き継ぎ、したがって、本件土地売買は、短期所有土地の譲渡には当たらない。

三  譲渡利益金額の算出にあたって控除される土地譲渡等のために要した経費の額

1 被告の主張

措置法施行令三八条の四第六項は、譲渡利益金額の算定に当たり、「土地譲渡等のために直接又は間接に要した経費の額」として控除されるものは、「その譲渡に係る土地等の保有のために要した負債の利子の額」並びに「土地の譲渡等のために要した販売費及び一般管理費の額」とし、右の計算は概算法により行うべきものとするが、同法施行令三八条の四第八項は、法人が右経費の額につき、当該事業年度においてした土地の譲渡等の全てについて支出するこれらの経費の額のうち当該土地の譲渡等に係る部分の金額を合理的に計算して法人税申告書(修正申告書を除く)に記載した場合には、当該計算した金額をもって当該土地の譲渡等に係る右各経費とすることができると定める。

ところが、原告は、本件各事業年度に係る法人税の確定申告書において、本件土地売買に係る経費について、合理的に計算したいわゆる実額計算の記載をしていないから、本件における譲渡利益金額の算出に当たって控除すべき経費の額は概算法によるべきである。

2 原告の主張

以下の実額によるべきである。

(一) 本件土地売買B 合計二〇五〇万三一三〇円

〈1〉契約書作成費用(印紙税)四〇万円、〈2〉仲介手数料(消費税込み)一四六六万七二〇〇円、〈3〉建物取壊費用(消費税込み)四五八万九〇〇〇円、〈4〉道路境界・測量費用五七万八三〇〇円、〈5〉司法書士手数料六万八六三〇円、〈6〉売却代金領収費用(印紙税)二〇万円

(二) 本件土地売買C 合計二六八八万七九八〇円

〈1〉契約書作成費用(印紙税)四〇万円、〈2〉仲介手数料(消費税込み)二五四一万一〇〇円、〈3〉道路境界・測量費用八三万三〇〇〇円、〈4〉司法書士手数料四万四八八〇円、〈5〉売却代金領収費用(印紙税)二〇万円

第三争点に対する判断

一  租税法律主義違反について

1  法人に対する土地重課制度の趣旨、内容は、前記第二、(争点)一、2で被告が主張するとおりである。

ところで、措置法六三条二項にいう「(土地等の)取得」につき、同法にはその意義を規定したいわゆる定義規定はないが、税法理論における借用概念の法理に従って、私法上、土地等の所有権の取得とみられるあらゆる場合が含まれ、購入という典型的な場合のみならず、合併または現物出資による土地等の受入れによる土地等の取得の場合も含まれると解すべきである。したがって、措置法六三条二項は、法人が吸収合併により土地等を受け入れた場合にも「(土地等の)取得」があったものとして、合併による受入日から引き続き所有していた期間に応じて土地譲渡益重課をする建前であると解される。

しかしながら、合併により受け入れた土地等の資産の総価額に占める割合が大きい場合は、合併が土地取得を目的としてなされることがあり、右のような場合には法人の土地投機による地価の値上がり阻止を目的とする土地重課制度を適用するのが相当である。そこで、措置法施行令三八条の四第二五項1号イ、ロは、右の趣旨を踏まえ、合併により受け入れた土地等の「取得の日」につき、原則として、当該合併に係る被合併法人が当該土地等を取得した日とするが、その有する資産の総価額のうちに占める土地等の価額の合計額の割合が七〇パーセント以上である被合併法人との合併により受け入れた土地等については、当該土地等の取得を目的とする合併とみなして、土地等の取得日の引継を否定し、合併による受け入れの日としたものである。

2  このように、同条項は、前記のとおりその趣旨は是認できるし、七〇パーセントを基準にしたことも裁量の範囲内であるから、問題になる余地はない。原告は、同条項が適用される結果、本来課税対象とならない合併前の土地のキャピタルゲインまでが土地譲渡益重課の対象になると主張するが、土地譲渡益重課の対象は土地譲渡益であり土地のキャピタルゲインではないし、結果的に原告主張のような不利益が生じることがあるとしても、それは適正な課税目的が達成されることによる反射的な効果にすぎないというべきである。このように、同条項は、本来課税の対象とならなかったものについて新たに課税をするものであるとは解されず、課税要件(課税物件)の細目を委任したにとどまるから、白紙的委任との非難もあたらず、何ら租税法律主義に反するものではない。

二  旧井筒木材の有する資産の価額の総額に占める土地等の価額の合計額の割合が七〇パーセント以上であるかについて

1  まず、被合併法人が有する資産の価額のうちに占める土地等の価額の合計額の割合が七〇パーセント以上であるか否かを判定するに当たって基準とすべき土地の価額は、合併時の時価、すなわち、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格(正常な取引価格)である。

ところで、原告は、前記第一、(争点)二、2のとおり、法的安定性のため、土地の通常の取引価格の範囲内で控えめあるいは堅めの評価とされる公示価格をもってしても七〇パーセント以上となる場合でなければならないと主張するが、適切な土地の時価の算定資料が存在する限り、さらに公示価格(通常は標準地の時価をある程度下回るものであり、その意味で堅い評価であるとされていることは、公知の事実である。)による必然性はないから、採用できない。

2  そこで、本件合併時点における別紙物件目録記載一ないし六の各土地の時価を検討するに、次に述べる理由から、同目録記載一及び二土地の合計価額は五億四三〇〇万円、同目録記載三ないし五土地の合計価額は二二億九七九〇万円、同目録記載六土地の合計価額は八億六六〇万円であると認めるのが相当である。

(一) 乙一五は、不動産鑑定士森井徹及び同梶浦利樹(以下、「梶浦」という)両名による別紙物件目録記載一ないし六の各土地の鑑定評価書であるが(以下、「森井鑑定」という)、森井鑑定は、不動産の鑑定評価に当たって最も一般的に用いられる標準地評価法によるものであり、具体的には、不動産の価格形成要因には一般的要因、地域要因、個別的要因の三つがあるところ、一般的要因及び採用した資料地(取引事例地、収益事例、基準地ないしは公示地)と取引事例地及び評価対象地等の近隣地域の想定した標準地(想定標準地)それぞれの地域要因、個別的要因等を分析してこれを点数化し、これを利用して、〈1〉取引事例地の取引価格に事情補正、時点修正、取引事例地の個別的要因の標準化補正を施したうえ、地域要因及び想定標準地の個別的要因の比較に基づく補正を加えて評価対象地の属する近隣地域内の想定標準地の比準価格を求め(取引事例比較法)、〈2〉収益事例に前同様の補正・修正等を加え、評価対象地の属する近隣地域内の想定標準地の収益価格を求め(収益還元法)、〈3〉基準地価格ないしは公示価格に時点修正、個別的要因の標準化補正を施したうえ、基準地ないしは公示地と評価対象地の属する近隣地域内の想定標準地との地域要因及び個別的要因の比較に基づく補正を加えて評価対象地の属する近隣地域内の想定標準地の基準地価格ないしは公示価格を規準とする価格を求めた上、以上の三価格を勘案し、評価対象地の属する近隣地域内の想定標準地の標準価格を求め、次に、評価対象地の個別的要因を分析して右想定標準地との個別格差率を求め、その両者から評価対象地である別紙別件目録記載一ないし六の各土地の本件合併時点における更地としての時価を求めたものである。

(二) 次に、乙一五及び証人梶浦によれば、森井鑑定は、本件合併時点における別紙別件目録記載一ないし六の各土地の利用状況につき、同目録記載一及び二土地(乙一五における1号物件)上には倉庫(現実には右倉庫が貸駐車場として利用されていた。)、同目録記載三ないし五土地(同2号物件)上には貸駐車場及び事務所として使用される建物、同目録記載六土地(同3号物件)は貸駐車場として使用される建物が存在することを確認したが、右の各建物は、木材置き場として建築された建物の内部を線で区画し、その区画を多数の者に駐車スペースとして賃貸していたものであり(乙五一ないし五三)、右の各区画は、「障壁等によって他の部分と区別され、独占的排他的支配が可能な構造・規模を有するもの」ではなく、したがって、右の各区画は借家法にいう建物には該当しないから(最判昭四二・六・二民集二一・六・一四三三参照)、右の各区画の駐車場契約はもとより、右の各建物自体についてもこれが賃貸されているわけではないから、いずれについても借家法の適用はないとし、その敷地である同目録記載一ないし六の各土地を貸家建付地として評価しなかったうえ、土地の鑑定評価上、地上建物が貸駐車場として利用されていても、通常の場合、これを理由とする評価減は特にしないことになっており、かつ、貸駐車場として使用されている地上建物は、低層で老朽化しており、とうてい同目録記載の各土地の有効利用がなされている状況にはないので、前記の更地としての正常価格から右地上建物の取り壊し費用を控除して、本件合併時点における同目録記載の各土地の時価を求めたものであり、その結論は、首肯できるものである。

3  これに対し、原告は、森井鑑定の信用性が乏しいとして種々主張するので、以下、これを検討する。

(一) 原告は、不動産鑑定評価の取引事例比較法等において、的確な運用を確保するためには、投機的取引であると認められる事例については、取引事例の収集及び選択の段階で排除する必要があるところ、森井鑑定で採用された取引事例のうち、事例番号1、2及び4ないし6は、投機的取引あるいは買い進みが認められる事例であり、したがって、これらの事例を用いて別紙別件目録記載一ないし六土地がそれぞれ属する近隣地域内の想定標準地の比準価格を求めても、その信用性が高いといえないと主張する。しかしながら、証人梶浦の証言によれば、森井鑑定で採用したいずれの取引事例についても、その取引価格は公示価格等を参考にした当該土地の価格水準の範囲内であることを確認して採用したことが認められる。また、原告は、森井鑑定の事例番号1につき、当該土地は、昭和六二年一月二六日、大同建設株式会社が取得し、同年三月二三日、明清エンジニアリング株式会社に転売され、同年六月二六日、阪和都市開発株式会社に転売され、現在も空地のまま放置されていることからして、投機的取引であると主張するが、事例番号1は、大同建設株式会社が取得した最初の取引であり、以後転売等が行われているからといって、直ちに大同建設株式会社が取得した取引についてまで投機的取引であると推認することはできないというべきである(なお、原告提出の甲三九号証(不動産鑑定士青木敦作成の別紙別件目録記載一ないし六土地の不動産鑑定評価書、以下、「青木鑑定」という)でも、森井鑑定の事例番号1に該当する取引が採用されている。)。原告は、森井鑑定の事例番号2の取引は、隣地所有者が当該土地を取得することによりL字型の土地を正方形の整形地にするための取引で、かつ現在も空地のまま放置されているもので、買い進みがみられると主張するが、証人梶浦によれば、本事例における土地の併合による価値の増加は一パーセント程度にすぎないから、買い進みと評価すべきほどの取引ではないと認められる。さらに、原告は、森井鑑定の事例番号4の取引は、売主が極度額一億九〇〇〇万円の根抵当権を設定していたところ、その五か月後に買主が極度額三億七〇〇〇万円の根抵当権を設定しており、現在も空地のまま放置されていることに照らし、投機的取引であるというが、右事情から直ちに投機的取引であると推認することはできない(青木鑑定においても、当該取引が取引事例として採用されている。)。原告は、森井鑑定の事例番号5の取引は、麻布建物株式会社が一団の土地をまとめ上げ、なにわ筋に面する土地にしようと取得したものであり、現在の所有者は末野興産で、更地のまま放置されており、また、森井鑑定の事例番号6の取引についても、同様に他の土地と併合され一団の土地としてまとめ上げられ、なにわ筋に面する土地にしたものであるから、いずれも投機的取引であると主張するが、証人梶浦の証言によれば、問題は買い進みにより著しい高値で取引されているかどうかであり、買手の属性を理由に直ちに投機的取引であると決め付けることはできない。

以上によれば、森井鑑定が採用した取引事例が不適切であったとは認められず、原告の主張は採用できない。

(二) 原告は、森井鑑定における地域要因の分析についても、鑑定時点は昭和六二年七月一日であり、地域の実態調査、現地調査はもはや不可能であり、鑑定を行った平成七年一月現在の状況から昭和六二年七月一日当時を推測するほかなく、自ずから限界があることに加えて、その間、いわゆるバブル経済及びその崩壊という急激な経済情勢の変動があり、地域の状況も著しい変化を遂げた可能性があるから、昭和六二年七月一日当時の地域要因を分析することには困難があり、森井鑑定の採用した標準地評価法には限界があると主張する。

しかし、証人梶浦によれば、昭和六二年七月時点での地域要因を分析するために、都市図、住宅地図、標準地評価に関連した資料、過去の鑑定書等を利用し、かつ、当時の事情に詳しい他の不動産鑑定士からも情報収集するなどしたことが認められるから、森井鑑定は、本件合併時点の地域要因を相当程度明らかにした上で行われたと認めることができ、原告の主張は採用できない(原告の主張に従えば、平成四年一〇月に鑑定評価を行った青木鑑定も同様の問題を抱えることになる。)。

(三) さらに、原告は、森井鑑定は、取引事例比較法による比準価格を一〇〇パーセント近く認定しているが、新不動産鑑定評価基準は、バブル経済期の金融機関による不動産市場への過大融資、土地転がしによる投機的売買による地価の高騰を受け、土地の適正な価格としての市場価値を見出すことが困難であったことから、これを見いだす次善の策として、土地の価格を収益性の側面から見直すことが必要であるとし、収益還元法に基づく収益価格を、土地の適正な経済価値を示すものとして、先走りがちな取引価格に対する有力な検証手段として活用すべきであるとしており、森井鑑定の手法は妥当ではないと主張する。

しかし、証人梶浦によれば、本件合併当時、土地の価格は大きく上昇していたが、収益価格は、資料を基礎として算出するものであり、かつ、賃料は地価の後追いとなりあまり上昇しない結果、非常に低い評価が出てくることになるので、収益価格は参考程度に見るというのが鑑定業界では通常であったこと、また、公示価格は土地の価格を若干下回るもので、昭和六二年七月当時、公示価格は土地の正常価格を二〇パーセント以内の範囲で下回っていたこと、想定標準地の基準地価格ないしは公示価格を規準とする価格は、想定標準地の比準価格と比較して比準価格の均衡が保たれているかどうかを判断することに用いられると認められるところ、森井鑑定では、別紙別件目録記載一及び二土地につき、想定標準地の基準地価格を規準とした価格は想定標準地の標準価格に対し約八五パーセント、同目録記載三ないし五土地につき、想定標準地の公示価格を規準とした価格は想定標準地の標準価格に対し約八三パーセント、同目録記載六土地につき、想定標準地の公示価格を規準とした価格は想定標準地の標準価格に対し約八四パーセントであり、いずれも均衡が保たれているものと認められる。以上によれば、森井鑑定が比準価格を重視しているとしても、これをもってその結論が妥当でないということはできない。

(四) 付言するに、取引事例比較法は、多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらの取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を施し、かつ、地域要因の比較及び個別要因の比較を行って求められた価格を比較考慮し、これによって、対象不動産の試算価格(比準価格)を求めるものであり、この手法の適用に当たっては、収集された多数の取引事例の中から対象不動産と比較するのに相応しい取引事例を選択しなければならず、そのためには、〈1〉近隣地域または同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るものであること(場所的同一性)、〈2〉その取引事情が正常なものと認められること、または正常なものに補正できるものであること、〈3〉個別的要因の比較が可能なものであること(物的同一性)、〈4〉時点修正することが可能なものであることの四要件を備えなければならない。

そして、証拠(甲二、五、六、乙五〇)によれば、原告は、森井鑑定の対象となった別紙物件目録一ないし六土地のうち、同目録記載一、二、四及び六の土地を売却しており(同目録記載四及び六の各土地の譲渡については、昭和四九年一二月二四日から施行された国土利用計画法の規定に該当する取引であり、投機取引の規制がなされている。)、これは、直接的に〈1〉及び〈3〉の要件を具備するものであるところ、これに、各取引価格とそれぞれの売買時点における公示価格及び基準地価格とを対比検討してそれぞれの売買時点の正常な売買価格を算出し(〈2〉要件の具備)、算出した正常な売買価格に公示価格ないし基準地価格の各変動率を使用して時点修正を施し、本件合併当時の正常な売買価格を求めた(〈4〉要件の具備)結果、公示価格の変動率を使用して時点修正した場合、同目録記載一及び二土地の合算価額は五億六二四〇万円、同目録記載四土地の価額は五億六〇二〇万円、同目録記載六土地の価額は八億二四八〇万円となり、基準地価格の変動率を使用して時点修正を施した場合は、それぞれ五億五八五〇万円、五億九〇九〇万円、八億五九六〇万円となることが認められる。森井鑑定の結論は、右試算結果とほぼ等しいか、むしろ若干下回るものであるから、その意味でも、森井鑑定の結論は支持されるべきである。

3  以上によれば、本件合併時における別紙物件目録記載一ないし六の各土地の時価は合計三六億四七五〇万円であると認められ、したがって、本件立木を除いて本件合併時に旧井筒木材が有していた資産価額は四七億九八八一万五二九一円となる。そして、これを前提とし、仮に本件合併時における本件立木の価額を原告の主張するとおり四億六一八四万七〇〇〇円と評価したとしても、次の計算式のとおり、旧井筒木材が有する資産の価額のうちに占める土地等の価額の合計額の割合は、約七二パーセント強となる。

(36億4750万円+1億7868万4766円)÷(47億9881万5291円+4億6184万7000円)=0.7273

なお、立木の価格も、効用・相対的希少性及び有効需要等に基づく市場の自律作用によって相場が自ずと形成されるのであるから、その時価評価市場価格(相場)が尊重されるべきである。したがって、本件立木の時価は、市場逆算価方式に則って作成された田岡作成の報告書(乙二一)記載の九五四五万円が妥当であり、この場合、前記割合が更に高くなることは明かであり、いずれにしても、原告の主張は採用できない。

4  よって、本件合併時において旧井筒木材が有していた資産の価額のうちに占める土地等の価額の合計額の割合は七〇パーセントを超えるから、本件土地売買AないしCは、いずれも短期所有土地譲渡益重課の対象となる。

三  譲渡利益金額の算出にあたって控除される土地譲渡等のために要した経費の額について

譲渡利益金額の算出に当たって「土地譲渡等のために直接または間接に要した経費の額」として控除されるのは、「その譲渡に係る土地等の保有のために要した負債の利子の額」並びに「土地の譲渡等のために要した販売費及び一般管理費の額」とされ、右の計算は概算法により行うべきものとされている(措置法施行令三八条の四第六項)が、法人が右経費の額につき、当該事業年度においてした土地の譲渡等のすべてについて支出するこれらの経費の額のうち当該土地の譲渡等に係る部分の金額を合理的に計算して法人税申告書(修正申告書を除く)に記載した場合には、当該計算した金額をもって当該土地の譲渡等に係る右各経費とすることができるとされている(措置法施行令三八条の四第八項)。ところが、証拠(乙二ないし四)によれば、原告は、本件各事業年度に係る法人税の確定申告書において、譲渡等に係る経費について、合理的に計算したいわゆる実額計算の記載をしていない。そして、法人税基本通達(措置法関係)六三(四)―五〔概算法による場合の譲渡経費〕では、「法人が販売費及び一般管理費の額の計算につき概算法(措置法施行令三八条の四第六項の規定の適用を受ける場合におけるその計算方法をいう。以下同じ。)による場合には、たとえその土地等の譲渡のために直接要した仲介手数料、広告費等の額が明らかであっても、概算法により計算した金額以外にこれらの金額を別途に控除することはできないことに留意する。」とされ(平成三年一二月二五日付課法二―四(例規)による改正前のもの〉、さらに、同通達六三(四)―一九〔更正決定の場合の経費の計算方法〕では、「措置法六三条一項の適用につき税務署長が決定又は更正をする場合には、同条第二項に規定する経費の額は、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次によることに留意する。(1) 決定の場合(法人税申告書の提出はしているが、措置法六三条一項に関する事項について申告をしていない場合を含む。)概算法により計算する。」とされている。

右によれば、本件譲渡利益金額の算出に当たっては、概算法によるべきであると解するのが相当であるから、原告の主張は採用できない。

四  結論

以上のとおりであるから、本件各事業年度の課税標準等及び税額等は、本件更正に係る課税標準等及び税額等(平成元年一二月期については、再更正及び賦課決定により一部取り消された後のもの)と同額であり、また、本件各事業年度の過少申告加算税額は、本件過少申告加算税の賦課決定に係る過少申告加算税(平成元年一二月期については、再更正及び賦課決定により一部取り消された後のもの)と同額であるから、本件更正及び過少申告加算税の賦課決定は、いずれも適法である。

よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(弁論終結日 平成一〇年二月一三日)

(裁判長裁判官 松本久 裁判官 大西嘉彦 裁判官大島淳司は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 松本久)

物件目録

一 所在 大阪市西区北堀江一丁目

地番 二三番七

地目 宅地

地積 七八・九四平方メートル

二 所在 大阪市西区北堀江一丁目

地番 四一番四

地目 宅地

地積 二五・九七平方メートル

三 所在 大阪市西区北堀江一丁目

地番 二八番五

地目 宅地

地積 一五六・六九平方メートル

四 所在 大阪市西区北堀江一丁目

地番 二九番七

地目 宅地

地積 一七九・六六平方メートル

五 所在 大阪市西区北堀江一丁目

地番 三一番五

地目 宅地

地積 四一一・九〇平方メートル

六 所在 大阪市西区北堀江二丁目

地番 九番

地目 宅地

地積 三五五・三七平方メートル

七 所在 大阪府泉北郡忠岡町新浜一丁目

地番 三番一六

地目 宅地

地積 一五七・五三平方メートル

別表

課税等経過表

〈省略〉

別表

課税等経過表

〈省略〉

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